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    たとい健康の人間でも、往復の長い時間をかんがえると、一泊や二泊で引揚げて来ては、わざわざ行った甲斐かいがないということにもなるから、少くも四、五日や一週間は滞在するのが普通であった。

    「いや、まだ」

    房一はその玄関土間に足を踏み入れて、

    「もう一人後から来るかもしれませんが、そしたらよろしく頼んます」

    と、道平は明かに盛子に気兼ねをしているらしかつた。

    練吉は軽く頭を下げながら、相手の房一がいきなり直立不動のやうに足をそろへたのを見た。

    房一は叫んだ。犬は房一の顔を見上げ、二三間走り、後がへりをし、それから急に葉の落ちた灌木の中にとびこんで行つた。がさがさやつて、ずつと先の路に出た。きよとんとし、時々匂ひを嗅いだ。

    「うむ、何かあ」

    「――?」

    もう日盛りの時刻はとつくに過ぎていたとは云へ、半ば傾いてそのためによけい濃くなつた日ざしは河原町の上に、それに沿つてゆるく曲つた川、周囲の山地の上に、こゝぞといふ風に照りつけていた。

    どこかで、「営林署だ」といふ声が聞えた。そして、黒い人影は左手へ向けてぞろぞろと走つて行つた。何か叫び声のやうなものがその方で起つていた。

    と、云つた。彼は殆ど房一の前に立ちはだかつた恰好だつたが、もぢもぢして、何だか自分を小さく感じていた。房一と目を合せると、すぐに外らせて、急にぐつたりとした様子になりながら、

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