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    房一はいくらかつんぼの道平の耳に口を寄せて、大声で云つた。

    「あ、神原の喜作さんだ」

    「高間さん、ひとつ何とかして引上げさせて下さい。このまゝでは――」

    と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。

    それは言葉にするとこんな風なものであつた。

    「あんまり、ぢつとしとつてもな、身体が生なまに、なるもんぢやから」

    今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。

    相手はさつきから黙つて、房一と徳次の様子を眺めていた。さすがに気が立つているらしく、節くれだつた手首を食台の上でこねるやうに動かしていた。そして、徳次よりもはるかに手答へのあるらしいこの男が何者か見究みきはめようとして、どこか気を配つた様子だつた。

    と手早く切り上げて、堂本の家を出た。

    「時に、お宅は鍵屋の分家の後ださうですな。あすこは大分前から空家になつていたと聞いていましたが」

    その時、突然練吉は、房一がさう云ひかけたまゝ当惑した表情になつたのを見た。

    この時ふと、房一は、何故こんなに相沢が立入つて訊くのか、といふ疑ひを持つた。だが知り合ふとすぐまるで親類か何かのやうに世話を焼きたがる河原町の人達の癖は、房一も家の造作のときにも、その後にも一再ならず見て知つていた。

    「はあて、神主さんになるのもえらいもんだのう」

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